〈前へ〉

2.ファイトレメディエーションとヒマワリ

〈次へ〉

4.再生土壌の可能性

3.信濃先生の研究と今後の展望

農地土壌へのカリウム肥料の投入を増やすことで玄米の放射性セシウム濃度が減少したことを示す図(福島県・農林水産省 「暫定規制値を超過した放射性セシウムを含む米が生産された要因の解析(中間報告)(2011)」図4https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_6017943_po_240112_tyukan.pdf?contentNo=1&alternativeNo=)

―農学についてどのようにお考えですか。

農学は実学だとはよく言われますが、それは単に社会に役に立つという以上の意味があるように思います。研究の動機には探求心や興味関心だけでなく、問題を認識していることが重要です。優先すべき事柄について、はっきり認識すれば後は動かざるをえなくなります。その起点にあるのは問題を探す能力です。農学の研究者には、目先の問題だけでなく、世の中に広く目を向けまた物事の奥底まで探り問題を見つけ出すことが求められると思います。震災後自主的に農地土壌の汚染対策に動く中で、次第にそうした考えが固まりました。


―その後はどのような研究をされたのですか。

農地土壌にカリウム肥料を通常より多く投入すれば、農作物の放射性セシウム吸収が抑えられることを確かめました。植物の根は利用可能なカリウムと放射性セシウムを同じ仕組みで吸収しており、土壌中にカリウム肥料が多くあることで結果的に放射性セシウムの吸収を抑えることができます。この効果が分かってから農地へのカリウム肥料の追加投入が広く実施されました。ところが、残念なことにしばらくすると追加投入をやめてしまう農地も出てきました。投入されたカリウムは徐々に農地土壌から失われてゆくので、追加投入をやめれば効果がなくなってしまいます。


―なぜ効果が実証されたカリウム肥料の追加投入をやめる農地が出たのでしょうか。

行政の方針では農作物の放射線量が一定期間基準値より下回ればカリウムの追加投入を続けなくてもよいことになってしまっています。また一部には、放射性セシウムへの対策を続けることで汚染のマイナスイメージを払拭できないのではないかと懸念する向きもあるようです。カリウム肥料の追加投入をやめることのリスクをきちんと伝えてゆくことが今の重要な課題です。投入を続けてもらうために、良い土壌を作るためにもカリウム肥料の投入やカリウムを多く含む稲藁をすき込むことが大切であると発信しています。


―関連する研究で、現在注目されているものはありますか。

気にかけておく必要があると思っているのは、ストロンチウム90という放射性物質に関わる研究です。福島の原発事故ではストロンチウム90があまり放出されなかったこともあり、研究が進んでおらず危機感を持っています。放射性セシウムと比べ、ストロンチウム90は体内で骨に溜まるため排出されにくい一方で、土壌の中では移動しやすく農作物にもよく吸収されます。危険性の高いストロンチウム90について、有効な対策を立てるための研究を重ねておくべきです。また、再生土壌での栽培試験を行っている研究者と打ち合わせをしたりもしています。