ファイトレメディエーションとは、植物による環境修復の技術の一つを指します。植物の根からの吸収を利用するもので、あまり大々的な研究はされてこなかったものの、塩害やカドミウム汚染では効果が報告されています。放射性物質についての効果は、1986年のチェルノブイリ原発事故の際に一部の植物は放射性物質の吸収能力が高いという指摘がされている程度で、実際に役立てられるかどうかはあくまで可能性の話に過ぎませんでした。そこで、福島の原発事故を受けて実験が行われることになりました。
結果としては、少なくとも日本の農地土壌では非効率的であり現実的ではないという結論に達しました。吸収の効率ははかばかしくなく、また根が農地土壌をかく乱して放射性セシウムが広まったり、大量の低濃度の汚染植物が育ち処理が問題になったりもしました。放射性セシウムは農地の表面の粘土質鉱物に吸着して移動しにくくなっているようです。ただしそれは、そこを除去することで放射線量を大きく下げることが出来るということでもあり、後に農地土壌の表土の剥ぎ取りが大々的に実施されました。
報道の影響や取り組みやすさから、ファイトレメディエーションが主にヒマワリの栽培という形で広まっていました。効果が確かめられていない段階では、そうした前向きな取り組みについて否定もし難く、また他の有効な対処法も打ち出せる段階にはありませんでした。後に行われた農地土壌の表土の剥ぎ取りは、除去した大量の土壌の管理が問題となるので行政もすぐには実施に踏み切れなかったようです。
効果について確かめられていない段階でのことは批判できないという感覚です。私を含め現場の人たちはそうした取り組みを批判的に捉えることはあまりないように思います。2011年の秋から冬頃には、ファイトレメディエーションの効果が低いことが分かりました。それでもファイトレメディエーションの試験を始めてからしばらくは、地元の方々からの熱烈な期待を日々実感していました。研究者としては効果がないと分かるのも成果とはいえ、地元の方々をがっかりさせてしまったのは心苦しかったです。
震災後の2年間は農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)でも北海道の部局に所属していたので、地元の農家の方に農地を借りて管理も協力して頂いていました。イレギュラーな活動といえましょうが、その時々の立場や状況に囚われるよりも、大きな視点で「今するべきこと」を自分なりに考え、行動することが大切だと実感しました。一連の活動の中で、私が携わってきた農学というものについて改めて認識を深くし、また専門以外の分野へも人脈が広まり、後々まで大きな財産となりました。協力して頂いた農家の方とは今でもお付き合いが続いています。